冬を望む、六花の声 ~六花の言ノ葉~
「窓を開けるのはいいが、髪はちゃんと乾かせ」
日付も変わろうかという深夜。
夜空を引っ掻いたような三日月を見上げていると、背後から呆れたような声が響いた。
振り返る前に頭にタオルを乗せられて、濡れた髪を拭かれる。長い髪が絡まないように丁寧に拭う日番谷にされるがまま、少女はおとなしくしていた。
「シロ」
日番谷の優しい手付きに、少女はその桜色の瞳を閉じながら幼馴染の名を呼ぶ。
「なんだ?」
「プレゼント」
「またそれか」
三週間ほど前にもした問いに、呆れたような声。少年の手が僅かに止まる。
日番谷の答えもあの時と変わらないだろうことは、想像に難くない。
少女が瞳を開けるよりも早く、その手の動きは再開された。
「お前が十番隊に来れば、それでいい」
「考えた」
「お前が断るのもわかってる」
「……シロ……」
大好きな幼馴染の少年。
彼の願いなら叶えてあげたいと思っている気持ちに偽りはない。
それでも、わがままを通してしまうのは……
「明日、休みが取れたんだろ?」
少年の優しい声に安堵して、こくんと頷く。
「なら、それでいい」
結局、日番谷がそれを許してくれるから。
いつでも先に折れて、少女の欲しい言葉をくれてしまうから。
「お前が明日1日一緒にいるんなら、それがプレゼントでいい」
「そんなのプレゼントにならないよ」
「俺がそれでいいって言ってんだよ」
「―――1日、ずっと一緒にいればいいのね」
「ああ」
日番谷の返事とともに、少年の腕の中に飛び込む。
邪魔なタオルが視界を隠す。日番谷の表情が見てみたいけど、この腕を放すのは惜しい気がする。
そんなことを考えていると、するりと落ちるタオル。
「誕生日おめでとう、冬獅郎」
予想どおりの驚いたような翡翠の瞳。
でも、すぐに嬉しそうに笑ってくれた。