アリスの森

ある冬の日のお姫様

「……なにしてるの?」

 先程まで黙々と窓掃除をしていた少女が、窓になにかを貼り始めたのを見て雲雀が聞いた。

「リサとガスパールを貼ってるの」
「なんの呪文?」
「リサとガスパール」

 知らない?――漸く振り返った幼馴染が首を傾げた。

「知らない」
「なんで知らないの?」

 ―――なんで、って聞かれても。どこかのネズミの仲間?

「リサとガスパール」

 少女の白い指の示す先には、マフラーを巻いた白と黒の――

「ウサギ?」
「違うわよ。リサとガスパール」

 少女の表情は「本当に知らない?」と不思議そうだ。

「『うさぎでもない、いぬでもない……とびきりキュートなパリの住人』」
「……で、なんで貼ってるの?」

 少女は雲雀との やりとりに気が済んだのか、窓に貼られた二匹の頭に赤い帽子をのせた。

「クリスマスだから」
「明日で終わるけどね。なんで今更」
「値下がってたの」

 一通り貼り終わった少女が、一歩下がったところで満足気に眺める。
 そして、クリーナーや雑巾などを片付けだした。
 その様子を見ながら、この幼馴染がキャラクター物を買うなんて珍しいと思っていた。いつも「かわいいわね」と言いつつ、それだけなのに。
 やけに「知らないのか」と聞いてきたのも不思議だ。どこかで見ただろうか?


「―――あぁ、」


 雲雀の声に少女が振り返る。


「ペンケースのキーホルダー」


 ようやく気付いた雲雀の言葉に、幼馴染の少女が満足そうに笑った。