冬を望む、六花の声 ~十番隊にて~
「たーいちょー、振られちゃいましたねー」
幼馴染の少女と入れ違いで執務室にやってきた松本 乱菊がおもしろそうに笑っている。
「うるさい、仕事しろ」
「してますよ。か弱い身でこんなに重い資料を運んできたじゃないですか」
運んできた資料を日番谷の執務机の端に置きながら松本が言う。
「でも、意外ですね」
「なにがだ?」
日番谷が眉間を寄せる。話を打ち切らないのは、あの幼馴染の少女の話題だからだろうか。
「話を聞く限りではあの娘、隊長にべったりだって聞いてたので。おとなしそうな外見だし、あんな風に反発するとは意外でした」
幼いながらも人形のように美しい少女。あまり親しいわけではないが、口数の少ないおとなしい性格だと松本は認識していた。
初めて見かけた時は、こんな少女が何故死神になどなったのかと不思議だったくらいだ。
「別に……なんでも俺の言うとおりにするわけじゃないからな。アイツが我を通すことは珍しくもない。だいたい おとなしいだけの奴が、十一番隊なんてやってられるかよ」
松本は「おや」と思った。日番谷がこんな風にあの少女の話を他人にするとは。
おそらく本人は無意識なのだろう。
表情を和らげた自隊の隊長を見て、あの桜色の瞳の少女が十番隊に来てくれればいいのに、と松本が思ったとか思わなかったとか。